中途採用で入社したばかりの新人に、転職体験記を書かせました。大学を出てから一年間、新規開拓の飛び込み営業を経験し、転職するに至ったその経緯はとても興味深い内容でした。
--------(以下 原文ママ引用)
「こんにちは! 新しくこの地区の担当になった△◎◇です。今回は経費削減の件でお伺いしたんですけど、社長様いらっしゃいますか?」
「いないよ」
「そうですか、ではまたお伺いします。御社にとって必ずメリットのある話ができると思いますので」
「ていうか、何の話?」
「はい、今回はすでにお使いいただいているコピー機の…」
「そんなものいりません、結構ですお引き取りください」
ドアの閉まる音を聞きながら、僕は手帳に印しをうっていく。
『丸の内一丁目○○ビル4階××商事 = ボツ』
今日すでに21件目の訪問。通信機器販売の会社に入って3ヶ月。自立したいと願って営業マンになった僕は、炎天下の名古屋の街でコピー機を売っていた。日々飛び込み、提案だけでも…と頭を下げ、商談アポがとれれば後は百戦錬磨の上司に任せる。首尾よくオーダーが取れれば利益の半分以上は上司が、残りが僕の成績になる。上司が出てきたらほぼ決まる。だから、僕の仕事はそのためのアポをとることだった。毎日毎日、アポアポアポアポ。頭の中ではずっとアポに追われていた。一日三回の上司への業務連絡。
「アポはとれたのか?」
「すいません、まだとれていません」
「なにしてんだよ! アポが取れなきゃオーダーなんて取れるわけないだろ! いいか、別にオレのために言ってるわけじゃないんだ。お前のためなんだよ。わかる? 早く一人でオーダーとりたいだろ?」
「…ハイ」
「なら気合いでとってこい。今日は必ず成果出せよ」
「…ハイ」
一日三回胃が痛くなった。
オーダーをとれない人間は不要だ。同期が辞め、中途が逃げ、行く先々の会社で追い返されているうちに疑問がわいてくる。
「僕は誰のために働いているのだろうか」
しかし待て。こんなことを思うなんて嫌なことから逃げているだけだ。もっとがんばらないと。そう思ってすぐに目の前の会社に飛び込んでいた。そのとき、僕は将来のことなんて何も考えていなかった。
入社して半年が経つと仕事にも慣れ、一人でオーダーもとれる。営業コンテストでは、新人賞にも入賞した。相変わらず辞めていく同期は後を絶たなかったが、僕とは無縁の話だと思っていたし、むしろ仕事の楽しさがわかってきたころだった。それでもやはり例の疑問は常にあたまの片隅にあった。再びそのことを考え始めたのが、辞めたいと訴える同期のぼやきからだった。
「オレ、もう辞めたいよ。
「まあ、そう焦るなよ。これからきっとよくなるさ」
「そんなこといってもすることは変わらないじゃん。別に仕事がツラいんじゃなくて、楽しくないんだ。ムリに売り込んで、買ってもらっても嬉しくない」
「…まあ、そうだよな」
それは僕もうすうす感じていたことだった。けど、仕事はつらくて楽しくないのが当たり前だと思っていたし、全然その状況に耐えられないわけじゃなかった。
「けど、ほかにあてがあるわけじゃないんだろ? とりあえず一年やってみて考えてもいいんじゃない」
「まあな。ところで、オマエ今日アポある?」
「ない(笑)」
よくそんな会話をしていた。毎回僕が同期をなだめて、がんばっていこうって言っていたが、会話のあと、いつも自分の本音に気づいた。
つらくて楽しくない仕事をずっと続けるのってどんな意味があるのだろうか。
その気持ちは最初のころ本当に小さなものだったが、日々の業務を繰り返していくうちに次第にはっきりとした思いになっていた。だが、その思いは上司にも相談することができず、もんもんと考えながらもシゴトを続けていた。
--------(引用ここまで)
彼の勤務していた会社に限ったことではなく、若手の多くがこんな悶々とした疑問を持ちながら「働く」ことの意義に悩み続けているのかもしれません。