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哀愁の出張サラリーマンに霧が降るのだ

昨日、私の本を3回もお読みいただいたという企業の人事担当者にお会いしました。東京と名古屋、距離は多少離れていますが、そんな方と出会ってお話できるとたいへん励まされるのです。ありがたいことだなあと思います。
決して大ヒットではないけれど、共感していただいた方の声が全国から聞こえてくることは、自分でも予想外の驚きです。

で、名古屋←→東京の新幹線の中で(働いている方々にはたいへん申し訳ないのだけれど)椎名誠氏の古いエッセイ「さよなら、海の女たち」を18年ぶりに引っ張り出して読み切ってやろうと企んでいました。もはや本の内容をすっかり忘れていたので、当時の椎名節がおもしろいおもしろい。昭和の離島や閑散町村の切なく染みる男の心の描写から、秋の寂れた海の情景が浮かんできます。


…その時。
隣の席で幕の内弁当を食い終わったサラリーマン二人組の関西なまりの会話が耳に飛び込んできました。


「課長、ジースペを年内5台なんてムリちゃいます? ナナハチの在庫だって結構な数でしょう?」
「おう、オレも部長に言うたろうと思っとんのや。今から5台なんて見込み客もないってな。図面引く前に今年が終わってしまうわ。部長は現場が見えてへんねん」

なんて仕事のやりとりが聞こえてくると、私の耳の神経はグッとそちらに吸い寄せられてしまう癖があります。どんなに意味がわからなくても他人の仕事のヨタ話に興味が湧いてしょうがないのです。
職業柄…といえばカッコもつくのですが、残念ながら私のはただの野次馬。情けないですが。


「ナナハチ売り切ってからやろ、普通。ジースペをそんなに売り急ぐ意味なんてないねん。予算達成してんだから。ヘンな売り方したらまた評判落とす言うねん」
「その通りですよ。部長の販売方針は、ありゃ20年前で止まったままなんじゃないっすかね」
「ああああそうそうそうそう、20年前20年前、20年前のまんまや」


この二人から件の部長はずいぶん嫌われているようです。しばらく部長に対する不満、考え方の違い・古さ、部署への働きかけ等々、いかにダメ上司なのかを約30分、延々とキャッチボールが続いていました。
そしてうっぷんが飽和状態を越え、話は佳境に入ります。


「課長、マジで部長に言うたってくださいよ」
「あ、…お、おう、そりゃま、そうだけど、気づいてんのやったらキミから言うたほうが効果あるやろ。ほら、オレはあれだからさ。転勤組だからさ」
「そんなん関係ないですよお。オレはそんなんヨオ言いいませんよお」
「キミが直接言うたほうがええねん。やっぱオレはあれだからなあ‥‥」
「オ、オレですかあ? いや、オレ無理ッスよ。ペエペエだから無理ッスよ」


このやりとりを聞いた私は、なんだか表情に出てしまうほど笑いがこみ上げてたいへんです。慌てて本を読んでいるフリをしたほどです。

この会社、結構いい会社なんじゃないか。

秋の海が車窓から目に映った時、関西版 弥次喜多サラリーマン珍道中から気持ちが離れ、再び18年ぶりの活字に目を落としたのであった。(エッセイ風締め)

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2006年9月14日 19:03に投稿されたエントリーのページです。

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