悪者風1BOXワゴンに載せられて伏見の街を離れた。
予定外のスケジュールである。
クルマは名古屋駅方面から西へ。
「いったいどこに連れて行くつもりだ?」とワシ。
運転席の男は決して行き先を言わない。
ただ「お清めだ」とだけ。
どうどん市街地を離れ、
町の風景も変わるほどの郊外にまでやってきた。
堤防の脇に煌々と光る銭湯の看板。
男はその駐車場にクルマを停めて無言でクルマを降りた。
ワシも黙ってついていく。
思いがけず、風呂に入ることになった。
サウナの熱気の中で公私に渡り深く話し込んだ。
その汗と同じくジワジワグダグダと‥‥。
サウナでたっぷり汗を流し、
露天風呂の脇にあるゴザの上で大の字になる。
男によると、汗を流したあと、
海や空をぼんやり眺めるのが『お清め』なのだという。
たしかにハダカで夜空を眺めて無心でいると、
違う気分が味わえたような気がする。
ただ夜空を眺め続けるだけで
会話も何もしない時間がずいぶん過ぎた。
ほんの少しだけ何かが「清められた」気がしないでもない。
銭湯を出て、男の住む地元に戻る。
あまりキレイとは言えないこぢんまりとした沖縄料理屋に入った。
生ビールの旨さがグッと沁みる。
男はこの店の常連らしく、
店のママ(といっても色気ゼロのオバチャン)と
親しく会話をしているので
ついワシも自然に打ち解けていく。
ママは高校卒業後、沖縄から大阪に出て、
ワケあって名古屋に流れ着き、
この小さな店を経営しているのだという。
客はワシと男だけになり、
ママが店の暖簾を下げ提灯を消し、
自らジョッキを持ってワシらのテーブルにやって来た。
ママは上機嫌らしく、
隣のアパートに住む三重出身のアキちゃんも呼ぶと言って電話をかけた。
風呂あがりのアキちゃんが
珍しく化粧をして登場したといってママが驚ている。
男がワシのバカさ加減について
オモシロおかしく大声で語っている。
「もうやめてくれよお〜知らないヒトにワシの話なんかよお」
と言っても止まらない。
男は酔った時のいつものクセで血液型の話をはじめ、
スペイン語の歌を唄っていた。
それぞれ事情の違う者同士が、
同じ皿をつつきながら気さくに話している。
ワシのイメージする「てだのふあ」の風景そのまんまだった。
この店、とても気に入った。
帰り道。
男の「お清め」に癒されていることに気づいた。