そのヒトは定刻通りに現れた。
前に見た素敵な笑顔だ。
僕が約束よりほんの数分だけ早く着いただけなのに、
「お待たせしちゃってすみませんでした」
と早足で近づいてくる様が
人となりを表している。
隅田川の見える部屋に通された。
ふと壁に飾られた小さな額の絵を指して
「恥ずかしながら私が描いたんです。殺風景な部屋を飾ろうと思って…」
少しはにかみながら教えてくれた。
問「このあたりにはよく来ますか?」
僕「いえ。もう何十年ぶりで…。記憶にないぐらいです」
問「じゃあここで長話もナンですから少し歩きませんか?」
そんな提案を受けて、
思いがけず散策のデートとなった。
問「ここはドラマのロケで有名な収録場所なんですよ」
僕「へえ〜、でもなるほどそんな雰囲気ですね」
問「それからあそこの店、
そんなに美味しくないんですけどね。
雰囲気がよくて長居できるから、つい入ってしまうんですよ」
僕「今から行きます?」
問「いえ、美味しくないなんて言ってしまったので‥‥
もう少し歩きましょう」
震災の日の吊り橋の様子、
新旧の織り交ざったビューポイント、
水門の歴史など、その土地の話を聞きながら歩いた。
東京駅からも遠くないこの地は
意外な散策コースの穴場だと教えていただいたが、
なるほどその通りだと実感できた。
橋を渡って
小さな神社の境内の前に立っていた。
顔を見合わせることもなく、
なんとなくその場の雰囲気で二人ともお賽銭を投げて
柏手を打っていた。
問「月島には行ったことあります?」
僕「いえ、初めてです」
問「じゃあもんじゃ焼きでも食べませんか?」
僕「いいですね!行きましょう」
鉄板を囲みながら、
僕はそのヒトの仕事の話を聞いていた。
もんじゃ焼きの作り方を店員さんに伝授してもらったので
なんとなくその場の雰囲気で
僕はコテを両手に持ってそれを焼いた。
宮沢賢治の哲学的な話、
これからの教育についての考え、
国や大企業の考え方など、
アカデミックな話題を豊富にもっているヒトで、
ずっと感心させられてばかりで
時間があっという間に過ぎていった。
最後に僕も
自分の仕事について少しだけ語った。
そのヒトがとても感銘してくれたので嬉しかった。
具体的に「どうすごいと思ったのか」まで
その場で返せるなんて、
とても聡明で素敵なヒトじゃないか!
「また近いうちにお会いしてください」
互いにそんな挨拶をして別れ、
気持ちのよい時間を過ごすことができた。
この人を僕は尊敬します。
私よりもひと回り以上も大先輩、
中澤二朗さん。