そしてまた今年、
長い歴史に幕を下ろした老舗がある。
昭和の時代から続いていた中国料理味彩さんだ。
いつものように
旧いビルの階段を降りた私は
いつもと違う佇まいに違和感を覚えた。
ガラスケースにあった
商品サンプルが片付けられ、
貼紙には閉店と短い謝辞が告げられていた。
店主はおそらく随分前から覚悟を決めていたのだろうが、
こちらにとっては何の前触れもない。
なんとも寂しい限り。
私が伏見に通い始めた
22歳の頃(約28年前)から存在した数少ない店だ。
オフィスワークのサラリーマン用に
ニンニクを抜いた独特の台湾ラーメンの味が
無性に恋しくなる。
思えば、ひるめしどきに
この街には代々の旨いものがあって、
界隈のサラリーマンたちの胃袋を満たしていた。
古くは、
日土地ビル最上階の『摩天楼大飯店』では、
五目焼き蕎麦に酢をかける風習と
杏仁豆腐の味を知った。
また、夫婦で経営する仙台牛タンの店で、
仙台スタイルの旨さに驚いた。
1階で経営していた頃の
洋食屋『三好乃』で食う生姜焼弁当は、
付け合せの野菜にまで味が染み込んでいた。
錦二丁目の『うお徳』で食う
ムツの照り焼きを超える焼き魚に
まだ出会ったことがない。
かつて正午を境に行列をつくり、
隆盛を馳せたそれらの店々は、
三々五々、暖簾を外した。
さてかくなる上は、
この街でいつまで味ひるめしにありつけるかどうか
私自身の勝負と相成りそうだ。
‥‥なんて、
池波正太郎エッセイ風に書き綴ってみた。