焼き鯖豚汁定食を平らげ、
ゲップをこらえながらレジに並ぶと、
おばさんたちが
ワシの前にどんどん割り込んでくる。
どうやらひとつの集団らしい。
珍しいじゃん。
名古屋老舗の演芸ホール
『御園座』が解体前の頃ならば、
歌舞伎公演や北島三郎ショーなんてのが
日替わりで開催されていて、
こうしたおばあちゃんの大群は
日常の光景だった。
が、その劇場も今は建替え中。
この界隈ではオフィスで働く人しか見かけない。
何しに来たんだろう。
あれよあれよという間に
十人ほどのオバチャンの群れがワシの前に来た。
が、まだ気持ちに余裕はあった。
「なんか炙りサーモン、おいしかったわ」
(「か」にイントネーション)
「ほんと。炙りサーモンはえりゃ〜おいしかったね」
(「サ」にイントネーション)
「ほんでナニ〜680円だよアンタ。えらい安いがね」
(「ら」にイントネーション)
「ほりゃ炙りサーモンはええわ。おいしかったし」
(「か」にイントネーション)
「ほんとだがね。これは家でやるよりいいわ」
(「よ」にイントネーション)
「ホントこれで680円でええんかしゃん。やっすいねえ」
(「え」にイントネーション)
「こりゃまたここで食べてもいいねえ」
(「食」にイントネーション)
「あ。いくらぁ?680円ね。ちょっとまっトってよ」
(「ト」にイントネーション)
「あんなはナニぃ〜何食べたの」
(「に」にイントネーション)
「ワシは鯖。鯖いくらぁ?780円?780円…あれ?財布がないがね」
オバチャン団体の会計は困難を極めた。
ノンビリ会話をしながら、
そして値段を確認しながら、
さらに自分の順番になってから財布を開きながら、
ひとりずつ支払っているので
あっという間に
オフィス街ランチタイムのレジは大混雑となった。
にもかかわらず、
オバチャンたちは意に介さず冷静だ。
炙りサーモンのコスパについて
話題が終わらない。
一人のお会計が30秒だったとしても、
10名いたら5分かかるわけで。
んーーーー。
オバチャンの後ろに並んでいるワシは・・・・。
ワシは試されている。
度量の大きさを試されている。
こんなことぐらいは笑ってやり過ごすんだぜ。
そして金曜の19時、
新人おサルがワシを呼び止めた。
「すみませんけど、私の原稿の誤脱字チェックをお願いします」
と申し付けて飲み会に消えた。
そうかそうか、お安いご用だぞ。
でも、これ今すぐじゃなくてもいいよな。
なんか試されている。
日曜日。
学生たちが弊社のセミナールームを
貸してほしいと言ってきた。
別にいいんだ。
日曜のワシはヒマだ。
出社するとママ社員マサヲがいた。
休みの日にご苦労さん。
みんな、少しずつ、
何かを犠牲にしつつも
人の都合をほんの少しだけ優先してやって
誰かの役に立っているだな。