そのランチの店は、
伏見の小さな雑居ビルの地下にあって、
普段は薄暗いカウンターのバーなんだけれど、
昼はカレーライスを供している。
狭い雰囲気に似合わず、
スタッフたちは明るく陽気だった。
オーナーが変わり、
足が遠のいていたんだけれど、
店内は昔のバーだった佇まいをそのまま残していた。
それを見た花子が当時の雰囲気を思い出し、
冒頭のセリフをつぶやたいた。
でもそれじゃ
まるで遠い昔の思い出じゃんよ‥‥。
カレーライスを食い終えたワシは軽く考えていた。
だけど、現実を考えると、
もう十分に昔話なんだよなあ。
かつて‥‥。
残業を終えた深夜に、
グダグダとハシゴで呑みつつ、
仕事の話をしつつ、
ついでにくだらない恋バナもしつつ、
酩酊状態で家路につくのがごく普通のことだった。
自由気ままに過ごす夜鷹。
そしてそんな日常が
実は翌日の鋭気も養っていたのだ。
‥‥たしかに懐かしい。
そしてオフィスに戻る道で花子は
続けてワシにこう言った。
『あの頃はホントに自由な日々だった』
そうなんだなあ‥‥。
『今じゃ私は三人目がお腹にいる30半ばの母で
秀さんは看護と家事に勤しむ50代の主夫ですよ!
時代は刻々と変わってますよ!』
たしかに。
時代は移りゆく‥‥。
ついこないだの出来事だと思っていたことが、
遠い日の記憶になってきたんのか…。
今週、52歳になっちゃったし。
そして、カッパちゃん。
いい子を産めよ。お疲れさん。
またこうして川が流れて、
ゆるやかに時代が過ぎていく、
おだやかにこの身を任せていきましょう。
You must remember this,
A kiss is just a kiss, a sigh is just a sigh.
The fundamental things apply,
As time goes by.