グラフィックデザイナーに
憧れていたはずだったワシなのに
なぜか取材をしてコピーを書く仕事になった。
社会人の礼儀も叩き込まれた。
鬼上司から徹底的にしごかれまくった。
「自分は今必死の努力と猛勉強をしとる」
と、生まれて初めて思った。
その日からワシは
シュウと呼ばれるようになり、
かつてヒデカズと呼ばれていた自分と決裂して
新しく生まれ変わった。
スーツとネクタイ姿、
通勤ラッシュの地下鉄出勤、
サラリーマンの礼節、
通常業務の間に山のようにある書類作成や会議、
上司との懇親の宴、
モーレツに厳しいお説教、
日々訪問する企業の人々との対応、
徹夜作業、
クレーム処理、
支社全体の会合‥‥、
そんな輪の中にいる自分が
信じられなかった。
ほんの少し前まで
リーゼントにシャコタンで。
まともな生活が送れるようなガラじゃなかったのに
いきなりまともな社会人になった。
2週間後には
同い年の新入社員が入ってきた。
驚いたのはみんな一流大学出ばかり。
おいおい、アルバイト待遇のワシだけアタマ悪い。
だから必死だった。
いつのまにか会社で
目立てるようになってきた。
努力をすれば一流大学卒業者にも勝てる。
人生、逆転は利く。
そんな思いがあるから、
今の仕事で若者たちを鼓舞しているんだと思う。
そうか…もう30周年か。
春の予感が香るいい時期じゃないか。
ワシの気持ちにも
いい空気が流れてきた。