打合せのため
郊外に向かう電車に乗った。
日中も席はガラガラで、
対面に座ったワイシャツのサラリーマンが
スマホゲームに熱中していた。
ゲームでミスをしたのか、
時折「あ」とか「チッ」などと無意識に口にしておる。
さらに上目遣いでワシのほうへ視線を向けた。
恐ろしい目つきの表情と
細かい指先の動きは
どう見ても見苦しいし薄気味悪い。
それになんだよ!
イヤホンを付けてるくせに
効果音みたいなのが流れっぱなしじゃないか!
こういうアホは恥も外聞もないな。
と、しばし白眼視しつつ、
電車に揺られているうちにウツラウツラと
居眠りをしていた。
ふと意識を戻すと、
電車は間もなく目的地の終点駅に近づいている。
無神経ゲーム熱中サラリーマン野郎は
すでにどこかの駅で降車済みのようだった。
なのになぜだ?
ゲームの効果音みたいなセリフみたいな音が
まだ微かに聴こえてくる。
え?もしかして‥‥ワシ?
急に焦って鞄の中をゴソゴソ探ると、
その音が大きくなった。
やがてハッキリ聞こえてくる。
「ピピ!」
「彼は壁にもたれボンヤリと何かを見つめていた」
「ピピ!」
(ゆっくり)「He leaned against ‥‥」
「ピピ!」
(速く)「He leaned against the wall,and ‥‥」
「ピピ!」
なぜか愛用のiPadちゃんが
めったに立ち上げることのない英会話アプリを
勝手に起動して喋っとる。
乗客は少ないが、
その視線は氷のように冷たい。
いい年こいて今さら
英会話を覚えようとしとるんかオッサン!
と思われていそうで猛烈に恥ずかしい。
しかも「え!なんで…」と無意識に口にしてるし…。
狼狽した表情と挙動不審な慌てぶりは
どう見ても見苦しいし薄気味悪い。
駅を降りるや否や
すでに汗だくになっていたのは、
夏の暑い午後の陽ざしのせいではない。