昨今のデジタルマーケティング理論を駆使すれば、売上効果の検証がすぐにできます。スマッシュヒット商品はある日突然生まれるかもしれません。…が、ブランドとは積土成山。取り組み始めてもすぐに成果を発揮してくれません。時間とともに積み上がるものです。ABテストで最適解を探って体の良いキーワードを並べてできたブランディングコンセプトは、広告手法であってブランディングとは呼べません。ブランドとは組織の信条・カルチャーで積み重ねていくものです。顧客のファン化、社員のモチベーションはアナログな感情で動くのです。「定量化できない情緒的な理論は時代にそぐわない!」という意識にとらわれ、成果を急ぎ、宣伝として創り出すブランドは「顧客志向」ではなく「利己主義のマインドコントロール」だとバレます。やがて本性を暴かれてしまいます。
前項「デジタルなマーケティング理論で作り上げない」にも共通して言えることですが、CPAが向上していくのはあくまで結果です。ブランディングは信条・カルチャーで心を動かすメッセージであって、コスパよく成果を得るための道具ではありません。求めたKPIを明確に示すことこそビジネスだという呪縛がブランディングをミスリードします。コスパ・タイパに視点を注ぎ、成果効率を優先すると定量的な成果を求めがちですが、ブランディングとセールス・プロモーションはきっちり別文脈で考えないと取るべき手法を間違えます。ブランディングの価値は信条・カルチャーに共感していただくこと。今すぐ儲かる近道を最優先するならマーケティングとプロモーションを磨きましょう。ブランディングとは突き詰めて考えれば「経営理念の動的翻訳作業」です。
上位顧客や人材採用のペルソナ設定を入念にして、競合優位性を徹底的に分析して、差別化の表現を深く考え、絞りに絞ってうまく言語化できたはずなのに、なぜかそのメッセージは平易に映ってしまい、訴求ターゲットの心を動かせない。それはなぜか。アウトプット表現を『キレイにまとめてしまうから』です。ネガティブ要素に蓋をして外面だけ美しく見せようとしてはダメなのです。ブランディングとは綺麗なヨソ行きドレスで見せることではなく、額に汗して汚れた日常の姿であってもスタンスが伝わっていくことが重要です。リスクを避けた言葉で人の心は動きません。
小説「下町ロケット」の主人公は、小さな町工場に勤務する経営者と社員たちでした。彼らのひたむきなこだわりと、様々な障壁にも立ち向う姿が映し出され、多くの人を感動させました。その意気込みが伝わることこそブランディングです。それは気骨の魅力化です。さまざまな価値を総称して短くまとめて表現した言葉には、実はパワーがまったくありません。そんな平易な言葉でイメージアップできるのは、すでに知名度の高い組織や商品の発するメッセージだけです。世間に存在を知られていない組織が見せるのは「気概と志の見える物語」です。端的でスマートなスローガンではなく、リアルで泥まみれの物語で共感を呼ぶのです。