その日、朝イチのアポに直行した。
地下鉄からJRを乗り継ぎ、
自宅から約一時間の旅…の予定だった。
乗換検索をしていたら
JRで遅延が発生しているとの情報をキャッチした。

今は便利な世の中だ。
手の中に収まる道具が迂回コースまで
しっかり案内してくれる。
遠回りになるとは言え、
余裕でアポイントには間に合いそうだ。
さすがダンドリのいい俺様。

同行の社員タモツも、
このJR線に乗ってくるのは間違いないので
親切なワシは遅延情報をメールで
知らせてやった。

迂回情報に従い、
地下鉄を２本乗り継いだ。
そして不慣れな駅で降車する。
バスの乗り場に向かう人がほとんどいないのか、
改札口からバス乗り場への経路案内は
とてもわかりにくい。

しかも、市バスと基幹バス、
名鉄バスと複雑に入り組んでいて
不慣れなワシには、
その意味不明な案内表示および
バス停の存在をうまく理解できていない。

いや。
だから遅刻したというオチではなく、
ちゃんとバスには乗れた。
見知らぬ町のバスに揺られ、
目的地から少し離れたバス停で降車し、
訪問先には無事にたどり着いた。

しかも、バスの本数が
思いがけずたくさんあったおかげで
到着時刻は電車で行くより早かったほどだ。
IT時代の先端機能を活用し、
しっかり移動に役立てるワシは
なかなかオッサンにしては優秀じゃないのか。
社員タモツより先に着いたじゃないか。

まさかヤツは遅延運行のJRで
立ち往生しているんじゃあるまいな。
事前に教えてやったのに‥‥。
などと思いながら
訪問企業のエントランス前で相方の到着を待った。

ところが社員タモツは
ちゃんと定刻通り現れた。
エライじゃないか！
どんな手段を使ってでも間に合わせる
その気骨たるやすばらしい！

「よく間に合ったな。エライぞ」
と褒めてやったのもつかの間、
「いや、自分の乗った駅では到着が３分遅れでしたが、
この駅につく頃はには定刻通り走ってました」
とシレッという。

そして、ムダな苦労をしたワシを
むしろ気の毒そうに眺めている。
その顔はちょっと勝ち誇ったような表情にも
見えなくもない。
「乗換案内あるあるですよね」
とダメ押しで言った。

むむむ。
なんかこの手のドンくささは
仕方ないこととは言え、
辛い。悔しい。

持ってないオトコ、だよな。